コラム



さまざまな道へ進んだ卒業生や先生方、各方面のプロフェッショナルへのインタビューを掲載しています。

齊藤さん Career Column Vol.7 

 齊藤 恵里子さん (都庁職員)


 

〜卒業してから分かり始めた 広い世界〜


うまくいかなかった就活

在学中は何かしら音楽で食べていけないかと模索していて、朝4時起きで朝練に行ったりと、がむしゃらに頑張ったつもりでした。でも、なかなかうまくいかず、4年生になったときに流されるように就活を始めました。もともと親は音大に行くことに反対していたこともあり、入学時から就活をするように勧められていました。

そしてよく分からないまま、とりあえず聞いたことがある大手企業や華やかそうなテレビ局などをかたっぱしから受けて、見事に全落ちしました。そんな時に、今まで自分が勉強してきた音楽がどのように社会の役立つかということに興味をいだき、演奏でない方面で進学することを考え始めて、アートマネジメントを学べる大学院に進学することになりました。

大学院在学中に、都心のホールで初めての事務職アルバイトをしました。当初はパソコンの使い方もよく分からず、私の作る資料は「なんかよく分からない」と職員さんによく笑われていました。電話を取ることも怖くて、まわりには迷惑をかけ通しでした。それでも辛抱強く使ってくださり、音大生目線の意見を知りたいということで広報についての意見を聞いてくださったり、主催公演にも立ち合わせてもらったりして、仕事体験のみならず、現場の人とのつながりが出来た貴重な経験になりました。

就職、そしてコロナ禍

大学院を修了後、学会や施設運営を請け負う会社で4年間働くことになりました。一年目はまるで仕事が出来ずいつも怒られていましたが、ピアノのレッスンで培った不屈の精神で(笑)なんとかくらいついていきました。2年目になってようやく軌道にのりはじめましたが、任された仕事がトラブル続きで仕事の山に溺れそうになりました。そんな時に他部署の社内で一番仕事のできる先輩に助けてもらい、その方の仕事ぶり をまねしていくうちに仕事の処理能力も対人スキルも身についてきました。成長できたきっかけとして、ロールモデルとなる人が身近にいたことは大きいです。

3年目に希望だった文化施設に異動になり、地元の方のために事業を企画するということに喜びを感じ、その頃からだんだん、仕事で稼ぐというより、地域の人のためになることをしたいと考え始めていました。そんな中ふと前から気になっていた公務員予備校の説明会に行って、憲法の授業を受ける機会がありました。ちゃんと勉強したのは久しぶりでしたが、先生の話が面白く、法律という決まりを覚えて、それを解釈し実務に活かすということは、ピアノの演奏にも通じるところがあり、自分の知らない知識をもっと吸収したいと思うようになり、予備校通いが始まりました。

一方、文化施設の仕事では地元の人と触れ合う機会が多く、簡単には解決できない社会的な課題も見えてきました。ヘイトスピーチなどのトラブルで警察官をよんだりすることもあり、音楽しか勉強してこなかった自分はまだまだ視野が狭く勉強が足りないと思うようになりました。文化施設で事業をするにも、人権や福祉をちゃんと勉強した上で再度芸術に関わる方が、視野も広がり、企画に深みが生まれるはずです。人生は長いので、文化芸術の現場から一回離れ公務員としての仕事にチャレンジしてみることにしました。

公務員への道

コロナ前は主催公演や担当事業が忙しく、予備校へ行く足もすっかり遠のいていたのですが、コロナ禍で施設が休館となった時に、急にプツンと糸が切れたように仕事にやりがいを感じにくくなりました。そんな時に都庁の採用試験が3ヶ月延びたことを知り、これはチャンスなのかもしれないと考え、集中して試験勉強を始めることにしました。

とはいったものの、時間がなく十分な論文対策ができなかったため、教養試験とプレゼンテーション・グループワークの試験方法を選びました。コロナ禍でも出勤はしていたので、仕事が終わってからファミレスで夜中まで勉強したり、カラオケボックスでプレゼンの練習をやってみたり、(その合間に気晴らしに好きな曲をかけたり)という毎日でした。本格的に取り組んだのは3ヶ月あまりでしたが、準備期間が短かったからこそ、頑張れたと思います。


カモかも 現在齊藤さんは都の消費生活総合センター職員として、若者がトラブルに巻き込まれるのを未然に防ぐため、こちらの「カモかも」と共に奮闘中


後輩へのメッセージ

在学中に就活していた際には、音大生であることがコンプレックスでした。一般社会で音大生はマイノリティで、ちゃんと大学で勉強していないし、ピアノしかやっていないし・・・。でも社会人経験を経て都庁の採用試験を受ける時には、逆にピアノをやっていたことについて誇りをもてるようになりました。大変なことも多かったけれど、こんなに一つの事に真剣に取り組み努力した大学生は音大生の他にはいないだろうと、思えるようになったのです。もちろん社会に出て、全力で仕事に取り組んだ経験も大きな自信になっています。

それから、新卒採用で自分が希望した企業に入らないと人生終わる、ということは全くありません。私自身、当初は志望企業に入れずかなり落ち込みました。でも実際働いてみたら、仕事内容が自分に合っているとか、職場の人間関係などが思っていたより大切だということに気づきました。もちろん、生活できるくらいのお金が稼げることは大前提ですが、人それぞれ仕事に対する価値観は異なるはずです。

同年代の音大生の仲間を見ていても、演奏活動しながら教えたり、一般企業で働きつつたまに演奏会をしたり、音楽業界で働いた人脈や経験を糧に自分で事業を始めたりという風にいろんな生き方があることが分かります。世の中の移り変わりは想像以上に早く、スキルアップやその時やりたいことのため転職を繰り返している知り合いもちらほらいますので、自分に合った生き方を探すことを なによりも大切にしてほしいです。

最後に、演奏が上手くないから自分は存在価値がないとかせめないようにしてください。私は大学時代自分のことをそう思っていて、人と比べてばかりでしんどくなり周りと積極的にかかわることを避けていました。音大の中は意外に狭く世の中はとても広いです。卑屈にならず、焦らず、のんびりと自分だけの生き方を探してほしいです。

2022年2月