Career Column Vol.8
東大路 憲太
さん(作曲家)
〜生活できることにこだわったから、努力できた〜
卒業したら、どうする?
「これだったら仕事として音楽をやっていけるかもしれない」という思いで、今の現場に飛び込みました。やってみたら自分に合っていたし、一生続けられそうな、やりがいのある仕事だったのです。
とにかく、ちゃんと仕事にしたかったです。在学中は本当に漠然と、卒業したらどうするんだろうと思っていました。でも大学の後半以降は、ちゃんと生活できる様になることにこだわっていました。生活が安定しない状態のまま音楽を続けるのは、精神的にきついと感じたのです。
リサーチが幸運な出会いにつながる
卒業前から、興味のある作曲家の情報集めをしていました。実際にゲーム音楽やアニメの劇伴づくりをしている人を、ツイッターで何人もフォローします。アシスタント募集が出ていれば応募するし、セミナーや講演会にも極力行くようにしました。
卒業してしばらくしたころ、ある作曲家の講演会に行って、個人的に少しお話しさせてもらえたんです。それを機に、レコーディング現場に出入りするようになりました。つながりが出来てからは、アシスタントなど雑用の仕事を少しずつもらえるようになってきます。とにかく細かい作業が多く、猫の手も借りたい現場です。
アシスタント自身は、作曲をするわけではありません。でも専門的に勉強した知識を活かせるし、「いずれ自分が作るんだ」と強く思っていたので、割り切ってアシスタント業務をしていました。この経験は、今の自分の中でも財産になっています。ひとりでやっているだけでは得られない知識やテクニックを先輩達から沢山得ました。仕事のやり方が分かるという意味で勉強になるんです。ほかのどんな仕事にも共通して言えることだと思います。
劇伴、BGMのお仕事
背景音楽をかく仕事です。自分の書きたいものをゼロから生み出すのではなく、ゲームやアニメの作り手によるオーダーから、お客さんがどうやったらもっと喜んでくれるかということを考えます。資料としてもらうテキストや映像を見ながら、ディレクターと方向性の擦り合わせをしていきます。
注文通りに作るというより、要望に応える中で、どれだけ自分が楽しんで作れるかが大切だと思っています。そうすると自ずと相手からの評価もついてきます。言われたまま「はい、これでいいですか」という曲しか書かない人は、生き残りません。
やり始めてから気づいたのですが、メディアの音楽が、仕事として成り立っているのは、社会の需要と噛み合っているからで、だからこそ発展しているんです。たかが商業音楽と思われるかも知れませんが、人に寄り添い、そこを突き詰めているからこそ進化しているんだとも思います。
在校生に伝えたいこと
今、間違いなく役立っているのは、桐朋時代に受けた和声の授業です。作曲のスタイルとして、禁則を敢えて使う人もいますが、それは分かった上で使わなければ豊かな音楽にはなりません。ちなみに自分は、和声の規則をしっかり守った方が気持ちよく書けます。
学生時代には、もっとクラシックおたくになる勢いで、いろんな曲を聴いて、知っておけばよかったと思います。ちゃんと時間をとって吸収できるのは、学生時代だけかも知れません。もっといろんな楽器のことを、身近にいる人に聞いておけばよかったと思っています。
卒業したあとのことは、早めに考えておいた方がいいです。考えていれば、いずれ次の行動が見えてくるかもしれません。答えが出なくてもいいので、ぜひ少しずつ考えてみてください。
2022年2月